2005年12月31日

「貨幣の仕様書を作れ」というお題に答えて

moneysystem.jpg

年の瀬に本当はこんなことやってる時間は無いんだけど、はてなの、コチラの質問に答えてみました。だって質問がおもしろすぎるんですもの。

Q.貨幣の概念のない世界から、ひとりの女の子がやってきました(かわいくて理解力があります)。さてあなたは貨幣の仕様を作り、彼女がその後お金を使えるように教えてあげてください。

1、「貨幣」システムの仕様書を作成してください。
2、作成する上で考えたことや感想をコメント願います。

※UMLやマインドマップを使っていただくと分かりやすくてよいですが、箇条書きや文章でも可。
※仕様が込み入ると思いますので、全体像がムリであれば、自分で的を絞って設定してください。例えば「為替」「オークション」「貯金」など。
※難しいと思うので、完成度低くても仕方ないです。気軽にトライしてください。

で、当方の解答。終わりのほうは、はてなで書いたものに改変・追記してあります。

■ここから

素敵な質問ですね。また難しい質問でもあると思います。恐る恐る解答させて頂きます。

まず、独自の貨幣(通貨)システムの設計と仕様書については後に回して、女の子への説明から初めてみたいと思います。その中で私の「貨幣」や「貨幣システム」について考えたことを明らかにしてゆきます。
その際、便宜的に現行の法定通貨(日本銀行券と硬貨)を使用していることにします。

■<議論の前提>

5番目の回答者kuippaさんがリンクを張られている「日銀キッズ」が素晴らしく分かりやすいので、その繰り返しになってしまいますが、
経済学の教科書にあるように、現在の一般的な貨幣は
@価値尺度
A交換・支払い
B価値貯蔵
の三つの機能を有しています。
で、その中でも私たちの日常生活の中で最も欠かすことがでず、諭吉先生を保有する初発の動機となるものはAの交換・支払い機能でしょう。野菜を買うにも、病院で診てもらうにも、その対価として私たちは貨幣を支払います。つまり、私たちの生活にかかせない「他者との財・サービスの交換」のために貨幣はほとんど必需品なのです。
@もBも、貨幣を保有することによって初めて私たちの眼前に現れてくる機能です。貨幣を保有する以前から、貨幣を求める動機になるのはAの交換・支払い機能のみだと(おおまかに)言えるかと思います。

貨幣の機能が理解されても、それだけでは貨幣がその機能を果たす理由を説明したことにはなりませんね。「貨幣論」の中心的課題として古今東西の研究者が頭を捻ってきたテーマです。ここでは岩井克人先生の『貨幣論』に依って「貨幣が貨幣として機能するのは、交換の相手(貨幣の受取手)がそれを貨幣とみなすからである」ということにしておきます。貨幣システムはその使用可能性への信頼によって成り立っている、ということです。

回り道になりました。ひとまずAの交換・支払い機能を貨幣が有しているがゆえに、私たちにとって貨幣は欠かせないのだ、ということにしておいて下さい。

■<いよいよ女の子に説明してみます>

haidarakeneko:かくかくしかじかの理由で、私たちの生活に欠かせないものが「貨幣」。このピラピラした紙と堅くて平べったい石のことです。君もこの世界で生きていくなら「貨幣」を持ってるといいよ。

女の子:っさいわねー。とにかくその「交換」ってやつに、この「貨幣」って道具がいるってこってしょー?

haidarakeneko:正解。まずは、そう理解しとけば十分だお。

女の子:じゃあ、さっさとよこしなさいよ、ほらっっ!

haidarakeneko:あうあう・・・。

女の子:ふーん。便利な道具なーのねー。で、アンタ達の世界じゃ、この「貨幣」なしじゃ、つまり「交換」なしじゃ生活できないの?。もし「貨幣」が手に入らなかったら飢えて死んじゃうわけ?

haidarakeneko:うーん。まあ、何とか多くの人に「貨幣」が行き渡るようにしようってことになってるんだけどね。
この世界じゃ、多くの人は一日中たった一種類の仕事をやりつづけるんだ。一人の人が家を建てたり、狩りをしたり、野菜を作ったりはしない。みんな自分の得意なことや、やりたいことにひたすら没頭するんだよ。中には、嫌々一つの仕事をやらざるをえない人もいるけど・・・。

女の子:えー!好きでもないこと一日中やり続けて気が狂わないの!なんでそんなことしてんのよー!?

haidarakeneko:そうやって「貨幣」を獲得するんだ。この世界ではね。生活をしてゆくために、「貨幣」を獲得するために、時には嫌な仕事もしなくちゃならないんだよ。

女の子:あんたバカぁッ?!だったら「貨幣」のいらない生活をすればいいじゃん。自分で家立てて、狩りをして、野菜作って。みーんな自分でやればいいじゃないのよ。そんなことも思いつかないのー。まったく、レベル低すぎ。

haidarakeneko:あうあう・・・・。確かにそれは一面の真理だよ。でも、みんながバラバラに生きるよりも。一人が一つのことを徹底的にやるほうが、世の中全体でみるとたくさん家が建ったり、たくさん獲物が捕れたり、より多くの野菜が作れるんだ。その事にこの世界の人たちは気づいたんだよ。みんながバラバラに生きる「自給自足」って状態より、みんなが一つ事に専念して、その成果を「交換」する「分業」ってゆう状態のほうが社会全体の幸せが増すんだよ。今はそういう社会体制になってるんだよ。

女の子:でも、アンタの幸せが、そのまま社会の幸せってわけじゃないじゃないの!

haidarakeneko:分かってるよ。いじめないでよ。だから自給自足の生活をしたい人は、そうしてもいいことになってるんだよ。でも「貨幣」無しの生活なんて、きっと耐えられない・・・。

女の子:なに甘いこと云ってんのよ!雄のくせに。

haidarakeneko:し、仕方ないんだ。僕にはどうしようもできないんだ・・。

女の子:ふんっ。まあ、いいわ。

haidarakeneko:分かってもらえると有り難いよ。

女の子:じゃあ、もう一つ質問するわよ。この「貨幣」さえあれば、この世界じゃあ何だって「交換」可能なの?野菜とか肉とかだけじゃなくて、例えば、私が毎日いくらかの「貨幣」をアンタからもらって、アンタの奴隷になるとかもあり?

haidarakeneko:な、何言ってんだお!!そ、そんな誘惑には負けないお!! ・・・。

女の子:例えばっつってんでしょ。

haidarakeneko:あう・・・。じゃあ、その答えはというと、「イエス」だ。とにかく財・サービスを提供する側が、受け取る貨幣量に満足しさえするなら、原則としてどのような「交換」も可能。「交換」する双方の合意・不合意だけが基準になるんだよ。

女の子:退廃的ね。

haidarakeneko:そうとも言える。でも、だからこそ、そこから「貨幣システムの仕様書」への解答が見いだせるんだよ。貨幣は万能であるというその条件が、貨幣システムの設計を要請するんだ。

女の子:あんた、誰に向かってしゃべってんのよ。


■<貨幣システム?>

貨幣は万能であると述べました。
もちろんそれは原則論であって、現実には多様な法的規制、社会的慣習(タブーの概念)等によって交換=市場取引が「許されない」財・サービスは存在します。経済学では「外部性」概念から説明されたりもします。
けれど法は破られるモノだし、タブーはその存在そのものによって「背徳」とは何かを露わにする。だから、常に貨幣への規制は破り破られるものだと考えられます。
貨幣は、ほとんど万能です。

「だから、こそ」です。
だからこそ、私たちは日々貨幣システムを設計しているといえます。
私はと言えば、自分の娘を女衒に売り渡したり、弱い立場にいる人を金銭でもって奴隷にする行為には賛成しません。自分がされる立場にはなっても、する立場にはなりたくないと思います。
masasanもそうなのではないでしょうか?大概の、それほど頭がへんでない人には、たとえお金で買えるとしても買わないと決めているものが一つや二つあるんじゃないでしょうか?その裏返しとして「お金で買えないものがある」という標語があります。短くて薄っぺらい言葉ながら否定できません。

多くの人は「お金で買えないこと」、つまり交換への何らかの「規制」を己が内面に備えていると言っていいのではないでしょうか。そして、どのような規制を設けるか設けないかが、そのままその貨幣システムそのものの性格付けとなるのです。それを道徳とか倫理とか言うのかどうかまでは分かりませんが。

日々、その「交換」への誘惑に揺さぶられ続け、時には一歩を踏み出し、時には思いとどまり、自己自身の内面に働きかけながら、私たちはたった一つの交換のシステム=自己自身の貨幣システムを設計しつづけている。そんなふうに、私には考えられます。

■<人間の数だけ貨幣システムがあるということ。そして>

そして、私がどんなに貨幣システムを設計したところで、女の子には女の子の交換システム=貨幣システムが出来てしまうのでしょう。人に教え諭すほどの者ではございませんので、ひとまず女の子には「交換」に対する諸々の規制や罰則なんかを備えている日本の貨幣システム、日銀券と硬貨を与えておくのが無難かもしれません。

それでもやはり、貨幣が交換の道具としてほとんど万能である以上、倫理的課題さえも究極的には交換の主体同士の価値観念に委ねざるをえない瞬間が存在します。
じゃあ、もし、巨大ロボットを軽々と操りながら弱冠14才で大学も卒業し独逸語も英語も日本語も操る容姿端麗なクウォーターなのに負けず嫌いで極端にプライドが高いゆえにどうしようもなく他者に飢えている女の子が、貨幣との交換をだしに

女の子:だから私を見てっ!!

と価値観念のボーダーライン上にあるような「交換」を迫ってきたならばどうしたらいいでしょうか?もちろん「来ねーよ」という冷静なツッコミが正しいわけですが、ひとまずそういう場面に出くわしたとしたら、私は

haidarakeneko:君は、まだ子供だ。

と言うべきだと考えます。理由を問われたら、情義は金銭との交換には馴染まないからだ、と答えておきましょう。それはつまり、私たちが他者との交換なしに生きられぬよう形作られているとしても、「貨幣なき交換」というチャネルやそのようなチャネルを通さずには十分交換できない「モノ・コト」が存在すると思うからです。(逆に、その「モノ・コト」は「貨幣無き交換」への不適応によってこそ、その存在が証明される存在だと言えるかもしれませんね。)
ならば、今も現に存在している、そのチャネルを手放す必要はない。地上からそのような「モノ・コト」を消してしまうことは、世界の豊かさにも幸福にも繋がりはしないと考えられます。

そういうわけで、お粗末ながら「私」の貨幣システムはだいたいそんなところです。まあ、凡人のそれでしょうか。一年後には全く別物になっているかもしれませんが、ひとまず長文はここらへんで〆

■参照させていただいたリンク

戸松智典様のWebサイト過去ログから。「セリフ集」に御世話になりました。つきましては「映画版」もよろしくお願いしたい。
映画版のセリフを探すならトウカ様のサイトに。こちらは全てのセリフが丸ごと。
ウィキペディアの該当ページ。「右利き」まで調べてあるなんて素敵すぎる。
もちろん英語版Wikipediaの該当記事も充実。そうか、だから綾波に・・・。

追記1
2006/1/3。タイトルを変更。文章の最後の項を追記。参照リンクを追加。
posted by 灰だらけ猫 at 16:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 随想ねこ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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